2010年09月11日

いつまでも、壊れたオルゴール

私が通っていた小学校の校舎はまだかつでのままあるのだけれど、
教室や校庭などの記憶はもう殆ど靄がかかったように遠い。
その中で、音楽室だけをよくおぼえている。

傾きかけた陽が差し込む音楽室。

放課後、音楽のO先生に一小節ずつ曲を教えてもらうのが楽しみだった。

楽譜はなく、先生の弾いたように弾く。
何日かかけて、一続きのメロディが完成するととてもうれしかった。

当時の私はエレクトーンを習っていたが、本当はピアノを習いたかった。
そんなことをぽろっと先生にこぼしたら、一曲だけ教えてあげる、と言って下さった。
(これは私に対してだけではなくて、
 O先生は歌が苦手な生徒に居残りレッスンなどをして下さる親切で熱心な先生だった)


そのとき教えてもらったのは「エリーゼのために」。

定番の曲でありながら、小学生の私にはとても難しかった。

「ルブルーさんは手が大きいから、きっとうまく弾けるようになるよ」

小さなころから背が高くて全体的に「でかい」ことに悩んでいた私は、
先生のこの言葉で目の前がぱっと晴れやかになった。


卒業までに、結局「エリーゼのために」は完成しなかったけれど、
あの有名なワンフレーズはさっと弾くことができる。
楽譜の読み方を忘れた今でも。




あれから20年近く経って、大人のピアノ教室に通っている。

基礎からのレッスンというよりも、
好きな曲を弾いてみましょう、という感じの気軽なスタンスである。
最初は楽譜の読み方を忘れていたのが段々読めるようになり、
左手もそこそこ動くようになってきた。

この教室は半年で一区切りなのだが、その最後の段階で、

「有名な曲だし、総まとめということでこれ弾いてみましょうか」

と出されたのが「エリーゼのために」だった。

夜の静かな教室の中に、オレンジ色の夕日が差したような気がした。



今年の春、時間ができたので何か好きなことをやってみよう、と思ったとき、
「好きなこと」がぱっと思いつかなくて愕然とした。
今までは、自分は「仕事が忙しい」と色々なことに対して自己を正当化してきたと思う。
すべての中心が仕事だった。
習い事をするなら、スキルアップに繋がるもの。例えば英語。
そういう選び方をしてきた。
いざ自由になれば、そこに私の意志はないのだ。
なんてつまらない人間なんだろう。

ピアノは、
音楽をやればこの乏しい人間性が豊かになるのではないか(情操教育的な意味で)、
という無茶な期待でなんとなく選んだ。


レッスンに詰まったり左手が攣りそうになったときは、
何で今更ピアノなんか習ってんだろう…
どうせ下手だし、飯の種にもならんというのに…とも思ったりもしたけれど、
最後の曲があの曲だったことで、私の心は跳ね上がった。
ああ、私は小学校のときこの曲を最後まで弾けなかったから、
ピアノを習いに来たんだ…と思った。

あのとき教えてもらったピアノが楽しかったから。
O先生が、私の「好き」を残していてくれた。

今、たまにものを教える機会があるが、
こんな風に、いつか私の教えるものが相手の専門にならなくても、
どこかに「好き」を残すことができるだろうか。
とてもYESとは思えなくて、気が遠くなる。
思えば、私が出会った「先生」はみんなとても素敵だった。



壊れたオルゴールのような演奏をしつつも、
ピアノの先生の丁寧な根気強い指導で、
なんとか最終回までに「エリーゼのために」を最後まで弾くことができた。
O先生に教わったのは本当に前半だけだったので、
後半の激しくなる部分は「何これ違う曲!?」という衝撃がすごかった。
たとえO先生の放課後のレッスンがこの部分にまで及んでも、
きっと聞いただけでは理解できなかっただろう。

「有名な曲を弾けるようになると、習いに来た甲斐があったって感じになるでしょう」

とピアノの先生はおっしゃったけれど、
これは、有名な曲以上の感慨だった。

10数年ごしの完奏。
(「完」というにはボロボロだが)
私自身も忘れていた思い出。
ピアノを習いに来てよかった、と心底思った。










前置きが長くなりましたが、何を言いたいのかというと、
家族の前で「エリーゼのために」を意気揚々と演奏したら、

「隣のXXさん家の子供の演奏そっくり…」

と母がつぶやいた(XXさんの子供は8歳、ピアノ教室に通い始めた)ので、
これはそういうアレなんで!
小学校の思い出を取り戻した所なんで!!
小学生の演奏に聞こえたらそれ本望なんで!
!!
(涙目)

っていうことを言いたかったんですよ。


決して無駄な投資だとかそんなことに思いたくないっていうか、
ピアノを通じて心が豊かになった私を見てほしいなみたいなそんなカンジだったんですけど、
言い訳が長い時点で全然豊かじゃないっていうことに今気がついた。
「XXさん家の子に失礼だよ、あっちのが上手いよ」という姉のツッコミを聞いたとき、
もう豊かな心をゲットするのはあきらめました。
ピアノとか媒体の問題じゃない、もう心が腐ってるんだ。
posted by ル ブルー at 00:00| Comment(2) | 日常茶飯事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ルブ姐さん、お元気そうで良かったです。
地震は大丈夫でしたか?

またお邪魔しに参ります。
Posted by amavel at 2011年04月11日 14:38
amavelさん、こんにちは!
この記事、一年前に書いて下書きにしてたのが、なぜか投稿されてしまったようで…
時勢にあわない内容がいきなり上がってて驚かれましたよね、ごめんなさい。

私は元気ですよーありがとうございます。
私の実家は大丈夫でしたが、知り合いが被災して、
最近までうちに避難してきててバタバタしてました。
amavelさんやお友達ご家族は大丈夫でしたか?
落ち着かない日々が続きますが体調には気をつけて。
Posted by ル ブルー→amavelさん at 2011年04月13日 16:57
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